2022年11月9日、中央道下り線で夜明けを迎えた男二人旅。諏訪ICを降りて最初に向かった先は、早朝6:30から営業している地元のパン屋さん「太養パン」。この日は我々が一番乗り。聞けば、大正5年から100年以上続く超老舗。朝早くから目力を漲らせた店主は三代目なんだそう。今回のライドの発着地となる「蓼の海公園」にクルマを停め、焼きたてのパンで腹ごしらえ。さてさて、ライドの準備をしなくては。
スタート地点の標高は既に1200mを越えている。朝8:00の気温は1℃あるかないか。肺を刺すような冷たい空気に加え、のっけから登りで呼吸は乱れる。この時期、信州の高原地帯に立ち入るには、それなりの装備と覚悟が必要だ。積雪や凍結があってもおかしくない。幸いにもこの日は天候が味方してくれた。抜けるような秋晴れが我々の不安をさらってくれた。
距離にして7km弱、高低差400mを駆け上がれば一気に視界が開ける。そこはもう霧ヶ峰。大手エアコンメーカーの陰謀か?「霧ヶ峰」という響きから、季節は夏、薫風吹き抜ける爽やかな高原を思い浮かべてしまう我々世代。しかし、この地の魅力はグリーンシーズンばかりとは限らない。乾いた風にススキの穂が揺れる晩秋の頃、色褪せた台地の荒涼とした情景然り、胸に迫るものがある。
「鐘がものをいふ 霧だ 霧だと
鐘がものをいふ 生きろ 生きろと」
標高1684m、忘れ路の丘に建つ“霧鐘塔”に刻まれたこの詩は、諏訪市出身の小説家 平林たい子 によるもの。雪に閉ざされる前のほんのひと時、この詩を噛みしめながら自転車で旅をするのもまた一興。霧ヶ峰からは天空回廊「ビーナスライン」を東へ。車山を越えて白樺湖まで続く区間のパノラマビューは圧巻としか言いようがない。青空をギザギザと切り刻んだような八ヶ岳、地表に立ち込める雲霞からひょっこり顔を覗かせる富士山、頭に雪を被った南アルプス、どれもキリッとした稜線が気持ち良い。
今回のライドの一番の目的は、私のこれまでの自転車人生における空白地帯、蓼科山の登山口にもなっている「大河原峠」へ行くこと。実は、2016年の春に越えようとしたものの、その時は通行止めで大幅に迂回させられたという苦い思い出が…。以来、頭の奥隅へ仕舞っていた大河原峠。数日後には冬季閉鎖となる「蓼科スカイライン」のお知らせを目にして、年内最後のチャンスかもしれないと思い立ったのが今回のライドという訳。
標高2093mの道標を背にして佐久方面を見下ろす。大河原峠からの眺望は、渋峠や乗鞍といったメジャーどころと比べたらやや地味な感じ。ですが、東御や小諸、軽井沢といった信州の街を懐に抱えた浅間山の悠然たるや。私自身、積年の課題を片付けることが出来て晴れ晴れとした気持ちになりました。
大河原峠で折り返し。その後は、女神湖畔を散策しつつランチ休憩。車山の北斜面に広がるスキー場エリアを抜けて旧中山道へ。ビーナスラインに合流した後、再び霧ヶ峰へ戻ってきました。途中、スキー場奥のヤバイ道へ迷い込むという、お決まりのハプニングもあったけどね。結果オーライ。夕暮れ時、忘れ路の丘に立ち、御嶽山の向こうに沈む夕日を見届けた我々。後もはもう急いで下山するのみ。もたもたしてたら真っ暗になって、気温も氷点下まで冷え込んでしまうからね。なんとか視界があるうちに駐車場まで戻ってくることが出来ました。ホッ。
SUMMARY
- Rider:
- HITACHI NORITAKA
- Date:
- 2022.11.09
- Distance:
- 102km
- Elevation:
- 2700m
- Road Surface:
- TARMAC