なぜASSOSの専門店を始めることになったのか

なぜASSOSの専門店を始めることになったのか

2007年の夏。初めてASSOSのビブショーツを穿いてサドルの上に跨った時の感動を、今でも覚えています。F2世代 = オレンジ色のパッドのFI.13という当時の最上位グレードを、思い切って奮発して買いました。

「今まで自分が穿いていたのは、一体何だったんだろう…。」
頭をガツンとやられたような感じでした。噂に聞いていたパッドのクッションはもちろん、生地全体のしなやかさ、包み込まれるようなフィット感、内部までの丁寧な作り。全てが、それまで自分が使っていた物とは別次元でした。
「ウェア一つで、これほどサイクリングを変えてしまうのか…。」
そんな強烈な印象でした。そして快適なサイクリングの為には、機材よりもむしろウェアの方が重要であることに気付いてしまったのです。

それまでASSOSというブランドに対する自分の中のイメージは、価格が高くて、お金持ちのオジさま向けのブランド…。正直、自分とは縁遠い感じがしていました。ですがこの最初のビブショーツの印象で、一気に心をワシ掴みにされました。

そこからその年の冬までの間に、ジャージ、インナー、ソックス、ベスト、ウィンタータイツ、ジャケット…。財布の中は寂しかったにも関わらず、一気に買い揃えていきました。当時の私は、自転車とは全く関連のない企業に勤めながら、アマチュアのサイクリングチームに所属していました。レースではチームの決まったウェアを着なければならなかったのですが、普段のトレーニングの際は、ほとんどいつもASSOSのウェアを着るようになっていました。

ASSOSはウェア専門のブランドなので、欧・米・国産、どのメーカーのバイクとも合わせやすく、当時全盛だったスポンサーロゴがベタベタ付いたプロチームのジャージを着たくないなぁと思っていた私にとって、余計な「色」の付いていないない、ニュートラルなASSOSのウェアは、ちょうど良かったのです。また、その機能一辺倒な感じも、少し無骨な感じがして、個人的には好ましく思っていました。

商品は素晴らしいのにどこにも売っていない

なぜASSOSの専門店を始めることになったのか

そんな中で困ったことが。ASSOSの製品って、当時は東京都内でもなかなか売っているお店が無かったのです。そして、売っていてもどのお店も品揃えが乏しく、なかなか欲しい色やサイズが手に入らない。
また売っていても試着はおろか、商品の説明などはほとんどしてもらえず、果たして自分にどのサイズが最適なのかもよく分からない。そんな状況でした。

「商品は素晴らしいのに、売っている環境が整っておらず、メーカー本来の価値が伝わっていなくて、もったいないなぁ。」
当時、仕事で海外ブランドの高級雑貨品の仕入れに携わっていた私は、生意気にもASSOSというブランドに対して、そんなことを感じていました。

今ほどWEBなどの環境が整っておらず、情報が乏しかった時代です。商品を買うと付いてくるパンフレットや製品タグなどを大切に保管し、翻訳をかけながら熟読。スイスのASSOSってどんなブランドなのだろうと、知識を積み重ねていきました。

そのようにして、徐々に全身ASSOSまみれになっていった私。全国各地のレース会場で定期的に顔を合わせる、当時のASSOS代理店のスタッフの方々と親しくなるのは、ごく自然な流れでした。

その後、様々なご縁とタイミング、周りの方のお力添えなどが重なり、ASSOSのウェア専門店を、2010年の夏に始めることになったのです。まずは私一人で。出来ることから少しずつ…。そんな船出でした。
自転車の選手としては全く才能の無かった私が、ASSOSというブランドの看板をお借りし、自転車のビジネスの世界に飛び込むことになった。私はそのご縁を、我が事ながら、今でも不思議に感じています。

日本初のASSOS専門店としての挑戦

なぜASSOSの専門店を始めることになったのか

今でこそサイクリングウェアのブランドショップが幾つか存在しますが、当時は、ウェアだけのお店という発想自体がない時代。まして、価格が高くてユーザーも限られているASSOSワンブランドだけで店が成り立つなんて、おそらく誰も想像していなかったでしょう。正直、私自身もそう思っていましたから。

でも、自分が大好きな自転車の、しかもASSOSという素晴らしいブランドに携われる喜び。そのことだけが、当時の自分を突き動かし、無謀とも思えることを進めていったのです。そして何よりもASSOSの良さを、一人でも多くのサイクリストに伝えたい。その思いだけで、今日までやってきた気がします。

ただ、自分の好きな物を「これ良いでしょう?」と、他人に押しつけるというのは避けたいと思っていました。その製品が作られた背景や、その製品が使えるシーン、使い方までをきちんと説明し、お客様の共感を得ること。お客様と、製品やブランドのストーリーを共有できるお店であること。それが大切だと考えています。

デジタルやバーチャルが、日々加速度的に進化する時代だからこそ、自然の中で、アナログでリアルな「自転車」という乗り物は、今後ますます価値が見直されると信じています。私たちの存在が、そのように同じ価値を共有できるサイクリストの皆さんの一助となれば幸いです。

ASSOS PROSHOP TOKYO 代表
 相原 亮介