~ 前回の続き ~
上州から信州へ、無事に越境を果たしたオッサン三人組。碓氷峠からは県道133号を下っていくのですが、平らなところに出ると景色が一変。お洒落な飲食店が立ち並ぶ旧軽井沢の銀座通りへ出ます。さっきまで山奥にいたのが何とも不思議な感覚に陥ります。と言っても、賑やかな観光地とは無縁の我々、次なる峠を目指して淡々と駒を進めるのみ。
それにしても、この日は5月中旬とは思えない強烈な日差し。日本有数の避暑地軽井沢でさえ30℃近いのだから、下界は蒸し風呂状態か? カラダが暑さに順応できていないこともあって、メンバーの顔に疲労感がうかがえます。中軽(なかかる)から北軽(きたかる)までジャンプアップしたところでたまらず小休止。
北軽の樹海を抜けるとまたしても景色が一変。突然天井が抜けたように青空が広がっていきます。浅間山の北麓、見渡す限りのキャベツ畑こそ嬬恋高原のシンボリックな光景。群馬県嬬恋村と言えば、高原キャベツの生産量日本一を誇ることで有名ですよね。火山灰が堆積した腐植土壌が高原野菜の栽培に適しているそうです。
浅間山の火山活動が作り上げた大地の上、どこまでも続いていく一本道の開放感と言ったら。浅間山、四阿山、草津白根山など、2000m級の山々を臨む雄大なパノラマビューは、本ライドで一番のご褒美と言っていいでしょう。
ワタクシ事になりますが、25年以上も前の話、実家のボロい別荘が嬬恋村にあったこともあって、二十代独身の頃はこのあたりのスキー場によく足を運んだもんです。昔の記憶を頼りにメインルートの「嬬恋パノラマライン」を外れ、魅惑の農道へエスコート。
スノーボードからロードバイクに乗り換えた今、「カラマツの丘」を見上げてふと思うこと。結婚して家庭を持ったけど、肝心の中身は変わっていないなぁ。母からよく言われたのは、お前は「糸の切れた凧」のようだと。子供たちからは、オヤジは「永遠の思春期」と言われていますが…。
村の小学校でしょうか? どこからか聞こえる12時のチャイム。そういえばそろそろお腹が…。周りにはキャベツ畑しかないと言ったら失礼ですが、この辺りでイートイン出来るパン屋さんやら、古民家をリノベーとしたオサレなカフェを期待してはいけません。嬬恋高原で貴重な補給ポイントと言えばココ、田代湖の近くにある「八景食堂」さんです。昭和の時代から変わらない大衆食堂がこの土地にしっくり合います。
八景食堂でお腹も心も満たされた我々、血流が胃に集中して眠くなるのを我慢しつつ後半戦へ突入。それにしても足がダルい…。それもその筈、この時点で獲得標高2000m超えてますので。写真では伝わりにくのですが、見た目以上に斜度がキツイ坂、8~10%くらいか?
懐かしさもあって鹿沢温泉のスキー場へ寄り道。ここへ来る為にわざわざ遠回りしたと知ってキレる他のメンバー。「懐かしいのはお前だけだろう!」って、ハイ、その通りでございます。
スタート地点の横川から見ると、浅間山を隔てて真反対に位置する鹿沢温泉のスキー場。距離的にもちょうど半分、やっと半分、まだ半分…。言い方によっては、まだ半分も楽しめるということ。「後半は下り基調だから」と大嘘こいてメンバーを引っ張っていきます。
そして迎える最後の砦、湯の丸高原の地蔵峠を目指します。実は私も自転車で地蔵峠を越えるのは初めて。事前にアイハラから「地蔵峠の登りは地味にキツイよ〜」と聞かされていたので、ある程度覚悟してたのですが、一漕ぎ一漕ぎがやたら重たく感じます。誰だ? こんなルートを引いたヤツは?
左手には湯尻川の清流。
清々しい風を運んでくれる新緑の木陰がせめてもの救いです。
地蔵峠を登っていく途中、道端に祀られている石造りの観音様と出会います。それも一体や二体ではなく、数百メートルおきに次々と。「百体観音」と呼ばれているそうで、長野県東御市新張を起点として、群馬県嬬恋村の鹿沢温泉まで湯治に向かう人々の道しるべとして、江戸から明治にかけて1町(約110m)おきに百体が建てられたとのこと。今でも70体ほど残っているそうです。
やっとの思いでチマコッピ(最高地点)に到達。標高は1732m。
ここから長野県東御市側へ降りていくわけですが、、、
東御市側の下りは急勾配かつタイトコーナーが連続する、まるでジェットコースター。麓の集落まであっという間でした。激坂ヒルクライムがお好きな方は逆周りでどうぞ。
ちょうど田植えの時期、水を張った棚田が綺麗ですな。
正面にうっすら見えるのは八ヶ岳ですね。
さて、ここまで来れば大きな登りはなく、残すは50km程度…。って、あと50kmもあるんかーい!
「自転車乗りを黙らせるには絶景と甘いモノを与えとけ」とは昔ながらの格言。小諸にあるジェラート屋さん「ちるちる」で糖分補給。今日のような暑い日にはジェラートが何よりのご褒美ですなぁ。
気がつけば時刻は16時をとうに過ぎ、あたりに夕暮れ感が漂い始める頃。当初の計画で行くと、菱野温泉まで登って(まだ登るつもりだった)、そこから浅間山南麓の標高1000mをつなぐ「1000m林道」を経由する予定でしたが、このペースだと日没までに横川まで戻るのが難しそう。ちょいとばかり寄り道が過ぎたようです。急遽ルートを変更して、浅間サンラインと呼ばれる広域農道を突っ切って時間短縮を図ります。
ジェラートが効いたのか? 最後の最後でスエゾー氏が覚醒。地蔵峠の登りでバテたかと思いきや、浅間サンラインに入ってからは本来の“牽きの強さ”を発揮。緩やかなアップダウン、平坦、ダウンヒルをグイグイ引っ張っていきます。さては、登りで死んだフリをしてたな〜。
夕焼けに浮かぶ浅間山にお別れ。
次は「1000m林道」も合わせたフルコース完走! とリベンジを誓うオッサン三人組でした。